この度講談社タイガ様から新しく発売されたミステリー百合小説「ミウ –skeleton in the closet-」に関する情報をご提供頂きましたので皆様にご紹介させていただきたいと思います。
この記事でしか読めない編集者様からのメッセージや試し読みなども掲載しておりますので是非最後までお読みいただければと思います。
【百合小説情報】ミウ –skeleton in the closet-
ミウ –skeleton in the closet-
【著者】乙野四方字
【発売】2018年9月20日
【判型・レーベル】文庫版・講談社タイガ
【価格】630円
【あらすじ】
就職を前に何も変わらない灰色の日々。あたしは何気なく中学の卒業文集を開き、『母校のとある教室にいじめの告発ノートが隠されている』という作文を見つける。
それを書いた元同級生が自殺したと知ったあたしは、その子のSNSのパスワードを暴いてログインし、その子の名でSNSを再開した。
数日後、別の元同級生が謎の死を遂げる。灰色の日々に、何かが始まった――。
キャラクター紹介
・主人公「池境千弦」
大学四年生→小説編集者。なんでもできるが、やりがいを感じない。中学の卒業文集に書かれた謎のメッセージを追ううちに、美夢の担当編集になり、なし崩し的に同居。
・パートナー「切小野美夢」
小説家。とにかく怠惰。千弦の捜査に興味を持って、協力。二人の過去の因縁を理由に千弦に脅されて、千弦のもとで書くことになる。
担当編集様からのメッセージ
『ミウ –skeleton in the closet-』は、百合ミステリーの“小説”です。
分かります……! 小説だと絵がないし、百合に満足できるか不安なことを……! ですが、騙されたと思って読んでみてください。百合×ミステリー小説という形式だからこそ描ける、女の子による女の子への「強い感情」が味わえるはずです。 百合好きの皆さんへのイチオシは、作品中に頻出する「ねえ、ちっち」「なに、ミユ」という会話です。ぜひそれぞれのシーンでの感情の移り変わりを想像してみると……もう、すごいです。 ラスト10ページを読んでから、もう一度表紙の二人を見てください。見え方がきっと変わっているはずです。 |
講談社タイガで新しく担当になってくださる編集者さんにご挨拶をしてきたのですが、そのロッカーの中を見て、無限に信頼できると確信いたしました。全部百合姫だそうです。 pic.twitter.com/GK6kTmW53h
— 乙野四方字 (@yo_mo_G) 2018年7月3日
特典情報
アニメイト・ゲーマーズ・書泉の百合部加盟書店で特典SS付きペーパーを配布しています。在庫の有無を確認される際は直接店舗へお電話下さい。
関連書籍
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ミウ -skeleton in the closet- (講談社タイガ) 乙野四方字 (著) ¥680 Amazonでチェック! |
試し読み
主人公・ちっちとミユの初めての出会いのシーン
そっと扉を押し開けてみる。カーテンが閉め切ってあるようで中は薄暗い。目を凝らすと、部屋の中央辺りの畳の上に布団が敷かれていて、中がこんもりと盛り上がっている。
「おはよう、ござい、まーす……」 たまにテレビで芸能人がやっている、寝起きドッキリのようなひそひそ声を出してしまった。起こすつもりなら大きな声を出せばいいのに、やはり何か躊躇してしまう。 とりあえず、カーテンを開けてみる。まばゆい日の光が差し込んでくるが、布団はぴくりとも動かない。傍らに正座してしばらく様子を見てみるも、起きる様子は全くない。本当にこの下に人が寝ているのか、もしかして毛布の塊があるだけなのではないか、などと思えてくる。 いつまでもこうしていても仕方がない、思い切って布団の盛り上がりに手を当ててゆすってみると、わずかに反応が返ってきた。 「んん……」 人間の声だ。若い女性。そして身じろぎ。どうやらこの中にはちゃんと切小野美夢が寝ているようである。 「あの、切小野さん。朝だよ。起きて」 ゆすりながら声をかける。けれどそれ以上の反応は帰ってこない。どれだけ寝起きが悪いんだ。だんだんといらいらしてくる。 なんか、もういいや。どうせもともと好かれてはいないだろうし。あの頃のままなら相手だって変人だ。もし嫌われたってどうということはないだろう。そう判断して、布団をはぎ取ることにした。 掛け布団の一辺を両手で掴み、一息吸って、一気にまくり上げる。 「起きて……っ!?」 そしてあたしは驚いて、その下で眠っていた彼女に、再び布団を押し付けた。 「あんた、なんて格好で寝てんの!?」 彼女は、全裸だった。 この世には、一糸まとわぬ姿で寝る女性が存在するという話は聞いたことがあった。しかしまさかお目にかかる日がこようとは。 思いきり布団を押し付けられて苦しくなったのか、あるいはあたしの声がうるさかったのか。呻きながら布団の下から彼女が這い出てくる。あの頃と同じ、いやそれ以上にひどくぼさぼさな前髪の隙間から、寝ぼけ眼があたしを見上げた。 「……誰」 「あの……覚えてるかな。中学の同級生の、池境千弦だけど」 「ちざかい……ちづる……」 あたしの名前を呟き、彼女は完全に停止する。思い出そうとしているのだろう、と思って待っていたけど、あまりにも反応がないためまた寝てるんじゃないのか? と疑いかけた時、やっと次の言葉が返ってきた。 「ジュース買ってきて……」 「は?」 「ジュース……甘ければなんでもいい……」 「なんであたしが」 「買ってこないとまた寝る……」 「……お金は?」 「後で払う……」 そう言って彼女は再び布団にくるまってしまった。 面倒だけど、彼女を起こさないことには話が始まらない。確かすぐ近くに自動販売機があったはずだ。あたしは釈然としない気持ちを抱えつつも大人しく外へ出た。幸いにして玄関から見える範囲に自販機があったので、安心して鍵を開けたままジュースを買いに行く。一番安いのでいいやと思ったけど、残念ながら全て一三〇円の缶ジュースだった。これだから田舎は。自販機の品揃えも悪い。 小銭を取り出しながら、なんで一三〇円なんて中途半端な値段なんだとぼやく。親に聞いた話だと、自動販売機の缶ジュースは昔、全部一〇〇円だったらしい。それから一〇円ずつ値上がりして、今は一三〇円になったのだとか。確かに、中学生の時は一二〇円だった記憶がある。ワンコインの方が売れるような気がするんだけど。 なんてどうでもいいことを考えながらリンゴジュースを買って、家へ戻った。 「はい。買ってきた」 布団の中から手が伸びてきて、ジュースを受け取る。 その時あたしは、みてしまった。 彼女の白く綺麗な右手、その手のひらから手首にかけて、火傷の跡があるのを。 古そうな火傷だ。もう消えることはないのだろう。せっかく綺麗なのに、と痛ましく思う。どうしたんだろうと気にはなるけど、さすがに聞くのは不躾だと思って自重した。 布団の中で、カシュッ、とプルタブの開く音。続いてこくこくと小さな嚥下音。そしてやっと、ふぅと息をつきながら、彼女が布団から出てきた。全裸で。 「服を着なさいよ」 「めんどくさい……」 どうやら彼女はやはり中学時代のように、少し変な人間のままなようだ。嫌がる彼女を説得し、なんとかダサいジャージを着せて、やっと話ができる状態になった。 「それで、何の用?」 ぼさぼさの頭をかきむしりながら、彼女は度の強そうな眼鏡をかける。これにジャージ姿が基本スタイルなのだろうか。顔は整っているのに、実にもったいない。 「その前に、あたしのこと覚えてる?」 「覚えてるわ。ちっち」 「……まさか、そう呼んでくれるとは思わなかった」 「どうして? そう呼んでたじゃない。私のこともミユでいいわよ」 彼女――ミユは、こちらが戸惑ってしまうほどあっさりあたしの存在を受け入れたようだ。ミユにしてみればもっと警戒してしかるべき事態だと思うのだけど、それほど簡単に処理できるものなのだろうか。 「……じゃあ、ミユ。えっと、久しぶり」 「うん。卒業以来ね。それで、ちっちは私に何の用なの?」 少し身を乗り出してくるミユ。長い前髪と分厚い眼鏡の向こうをよく見てみれば、その瞳に映るのは、警戒よりも好奇心や興奮の色に見て取れる。どうしてこんなに食いつきがいいんだろう。寝起きでいきなり目の前にいた、古い同級生の用向き……考えてみればどこか文学的だ。やはり作家として気になるのだろうか。 ともあれ、ミユが少なくとも話を聞く態度である以上、無駄に引き延ばす必要はないだろう。あたしは早速本題に入ることにする。 「えっと、ミユは、作家の如月海羽なんだよね?」 「そうよ。だから?」 ミユがさらに顔を近づけてきたから、思わずのけぞってしまう。こんな風にされると、まるであたしが来ることを知っていたかのように思えてくる。いや、むしろ待っていたかのようにすら……もちろん、そんなわけはないんだけど。 「えっと……」 何と言えばいいのか、何から話せばいいのか、一瞬悩む。 結局、あたしが選んだ言葉は。 「あたしは、田中奈美子さんを生き返らせた」 ミユの目が、一瞬丸くなって。 「へえ」 そして、ミユは楽しそうに笑った。 |