世界を旅する百合物語「家の中の乙女、世間を知らず」Kindleにて配信中
●あらすじ
御国が『変革の時』を迎えてから早数十年。
由緒正しき華族の家柄に生まれた宇喜多千鳥は物心が付く前から一度も屋敷の外に出た事のない、いわゆる箱入り娘であった。
使用人の落とし物であろう旅行記を拾い読み、外の世界を知って以来、古臭い慣習や家柄に固執する母上や御家の事が嫌で堪らなくなっていた。
明日には前田家との縁談が控えているというその夜、彼女はついに御家を出奔する。
彼女は外の世界に息づく様々な文化や人々の生活に触れながら、旅の途中で自分と同じ華族の生まれである伊佐敷クレアと出会い――。
●登場人物
・宇喜多千鳥(うきた ちどり)
本作の主人公。十八歳
華族の家柄に生まれた箱入り娘。
華道やピアノといった教育を受け、将来名家へと嫁ぐために花嫁修業を経ていたが、ある時屋敷内で拾った一冊の本『夜明けの旅行記』によって外の世界の事を知り、自分の置かれている家庭環境に疑問を抱くようになる。
それ以来、彼女はたびたび母親と喧嘩をするようになり、そのために気が強くなって、「女性らしくお淑やかに振る舞うように」という母親の口癖に反発するように中性的な言動を取るようになった。
武芸に優れた現陸軍中将である父親譲りで行動力や決断力を備えており、身のこなしは相当軽い。
・伊佐敷クレア(いさしき くれあ)
本作のヒロイン。十八歳
名家の家柄に生まれた御令嬢。本国出身の父親と外国出身の母親の間に生まれたハーフである。
父親の寛大な心と母親の慈愛に触れて育ったため、心根がとても優しい。道端で困っている人があれば見過ごせない性格である。その反面で打たれ弱く臆病な一面も持つ。幼い頃から童話などの空想には目がなかったため、メルヘンやロマンスに対して一種の憧れを抱いており、しばし自分もそういった体験をしてみたいという願望がある。
母親譲りのやや金髪寄りの茶髪のロングヘアと、澄んだ青空のような碧眼の外見を持つ。
●本作に含まれる百合について
『武家生まれの箱入り娘×商家生まれのハーフのお嬢様』
メインとなる百合要素は、宇喜多千鳥と伊佐敷クレアの関係性になっております。
中性的な言動を取る宇喜多千鳥はどうやら同性から好かれる容姿をしているようで、本編の第一話『花売り』では多くの女学生から声を掛けられるシーンがあります。
そんな主人公が本作のヒロイン・伊佐敷クレアと初めて顔を合わせるのは第二話『出会い』での話です。道端で父親とちょっとした口論になっていた伊佐敷クレア。
感情的になった父親が持っていた杖を振り上げたその時、彼女を咄嗟に庇ったのが主人公・宇喜多千鳥だったのです。
そこから色々あって、一緒に旅をする事になった二人はお互いに仲を深めていき……。
この物語は宇喜多千鳥の一人称視点で描かれておりますが、
だからこそ世間知らずな彼女の無自覚で時に大胆な言動がはっきりと読み取れるため、
読者である貴方はきっと「千鳥に対するクレアの気持ち」を想像してもどかしい思いをされる事でしょう。
この二人の他にも、
「ある時から不仲になった元華族の姉妹」
「結核で友人を亡くした女性」
「とある事情で離れ離れとなった二人の女性」など、
読み手によっては百合と解釈できるお話も登場します。
百合好きの方には是非、そういった登場人物の背景にも注目して、想像を膨らませて頂けたらと思います。
●見どころは3つ
・日本の大正時代をモチーフにした舞台
本作では日本の大正時代を思わせる要素を多く取り入れております。
華族という身分制度をはじめ、和洋折衷の街並みを背景にした蒸気機関車や舞踏館、喫茶店、その他にも当時流行した殺鼠剤と猫などが物語の端々に登場して、現代にはない独特の雰囲気を作り上げております。
また、お金の単位も大正当時の価値を参考にした『銭』や『円』に統一する事で、その雰囲気により確かなリアリティを持たせています。
・箱入り娘の成長過程
本作は主人公である宇喜多千鳥の成長が肝になっております。
彼女は箱入り娘であるため、最初はお金の使い方や蒸気機関車の乗り方さえ分かりません。また身分の高い華族の娘という事もあり、時に他人の心の機微を察する事ができずに無神経な言動を取ってしまいます。
旅の中で様々な庶民の事情に触れながら、伊佐敷クレアとの親交も深めるにつれて、彼女は自分の立ち居振る舞いを見つめ直していきます。
・宇喜多千鳥と伊佐敷クレアの出会い
旅の途中、宇喜多千鳥は自分と同じ身分である伊佐敷クレアと出会い、とある切っ掛けから一緒に旅をする事になります。
世の中の事を知っているクレアの存在は千鳥にとって助けとなり、また世間知らずな千鳥の言動を諌めてくれる良き友人にもなってくれます。
それがある時から、宇喜多千鳥は友人に対する感情とは違った別の気持ちを抱くようになるのですが、そこは本編でお楽しみ下さい。
●最後に
この『家の中の乙女、世間を知らず』は今時流行りの作風ではなく、派手な事件だったり突拍子のない出来事だったりが起こる訳ではありません。
自分の子供に対する父母の思い、大切な誰かを想う一途な気持ちなど、そうしたシンプルながらも普遍的に存在する人間の感情に主点を当てた物語です。
百合要素に関しても本編全体を通してじっくりと色味を帯びてくる描き方のため、人によっては退屈に感じられるかもしれません。
けれど、私はきっと誰かの心の琴線に触れるはずだと、そう信じております。
●作者情報
作者名:坂本裕太
Web上で気ままな小説家として活動中。執筆した小説をAmazon Kindleで販売するかたわら、「pixiv」や「小説家になろう」で習作を公開しています。ジャンルは特に拘らず、書きたいと思った作品をプロットに起こし、自分の好きなように物語を書き綴っています。
『人間を捨てた魔法使い』WIT STUDIO賞 WITノベル部門 銅賞受賞
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百合訳童話集《第一集》 |