揺れる年頃の少女たちの絶妙な関係性を描いた「夜と海」。その完結巻となる第3巻が4月15日についに発売された。2018年に第1巻が発売されてからその絶妙な関係性を描き続けてきた物語が遂に終わりを迎える。今回、完結を記念して「夜と海」を著者である郷本先生と共に本作の魅力をインタビュー形式で語っていきたいと思う。
郷本先生「夜と海」第3巻発売記念インタビュー!
―― 郷本先生。この度はお忙しい中インタビューにご協力いただき誠にありがとうございます。本日は「夜と海」について多くの方に知って頂けるよう、本作ついて深く掘り下げていければと思っております。お付き合いのほどよろしくお願いいたします。
郷本先生:はい、よろしくお願いします。
高嶺の花の転校生・月子は、ある日学校のプールで一人で泳ぐ彩に目を奪われてしまう。あまり他人に関心を寄せない月子だったが、不思議と彼女のことは目で追いかけるようになる。それでも直接接点を持つようなことはなかった二人だったが、ある雨の日をきっかけに二人の関係は深まっていくことに…。
―― それではまずは物語の中心となる月子と彩の二人についてお聞きしたいと思います。本作は他人を寄せ付けないオーラを身にまとっている月子、それとは真逆な能天気な性格の彩。本作ではこの正反対な二人の絶妙な関係性に重点を置いた作品となっておりますが、この特徴的とも言える二人のキャラクターはどういった経緯で誕生したのでしょうか。
郷本先生:イギリス映画に『マイ・サマー・オブ・ラブ』という作品がありまして、田舎の町で出会った真逆な性格の少女二人のひと夏を描いた作品なのですが、二人の関係性や刹那的な感じが好きで、自作は全然似た感じではなくなったんですが、相互不理解のような作品が描けたら良いなというのがありました。そうして生まれたのが月子と彩でした。
郷本先生:あとキャラクターに関しては視野にないものはあんまり描かない、ということを意識しています。例えば月子の眉毛をあんまり描かないとか。
―― 詳しくありがとうございます。キャラクターや相互不理解によって生まれる独特な空気感は本作の大きな魅力のように私も感じております。その他の魅力的な部分として、「夜と海」では人間が魚になったり背景が海の中になったりと、多種多様な表現を数多く取り入れているのが魅力の一つのように感じます。
郷本先生:あの演出は主にキャラの視点を誇張するものとして取り入れています。賑やかしといいますか、話的にもストレートに描写すると会話だけになってしまうので画的な変化が欲しくて、映像を作る感覚で好き勝手やらせて頂きました。
―― 第3話の彩が魚になっているシーンは最初の方ということもあってとても印象的に残っております。
教室で干からびている彩。
郷本先生:キャラクターが魚になる表現は不思議の国のアリスだとかブリューゲル、魚頭、など割とクラシカルなものですね。
―― 作中で様々な海洋生物が心理描写として表現されているのも本作を読んでいて楽しい要素だと思います。先生のお気に入りの海洋生物などもいらっしゃるのでしょうか。
郷本先生:シーラカンスとか好きですね。沼津港深海水族館まで冷凍個体を見に行ったりしました。どうぶつの森で高く売れるところも好きです。
―― 今軽く調べさせていただいたのですが、冷凍個体って世界でも類を見ない希少な物なのですね……。
郷本先生:あとはカグラザメ目やジュウモンジダコ系、昨年くらいに海岸ででっかいアメフラシを見てから後鰓類も気になっています。
―― それだけ海洋生物を愛されてる郷本先生だからこそ、あのように巧みな表現に昇華させることができたのですね。
―― キャラクターに関する表現とは別に、先生のお気に入りのシーンなどはございますか。
郷本先生:第16話の「夏が終わらなければいいのに」のページは理想に近いかたちで出せたので比較的気に入っています。
―― このシーンはこの後の彩のセリフも相まってとても素晴らしかったです。
郷本先生:ありがとうございます。あと3話で先生が食べてたラーメンの匂いみたいな遊びはまたやりたいです。
―― 作品について語って頂き誠にありがとうございます。続いてですが、今度は「夜と海」が生まれるまでの経緯や執筆に関するバックストーリーなどをお聞きしてもよろしいでしょうか?
郷本先生:「夜と海」が生まれた経緯ですね。芳文社さんで連載をさせていただく事になった時に、私自身の漫画の経験がまだ浅かったため、物語を作って描き切る事をポジティブにイメージすることが出来なかったんです。
郷本先生:そこで、地に足ついたストーリーみたいなものが必要なく、かつ終わりが決まっているかいつでも終われる作品、という方向性で担当さんと相談し、それらの条件をクリア出来そうなプロットとして考えました。
―― なんと、そのような事情があったのですね……。
郷本先生:はい。ただそれとは別に、内容としてはポエティックなイメージ空間的な表現をやってみたいというのが先にあったと思います。
―― イメージ空間的な表現というと先ほどお話しした演出面とのお話でもリンクしますね。
郷本先生:それと作品を描いていく上での縛りとして縦軸をフワフワにすることと、台詞を喋り言葉にすること、主人公たちが学生生活そのものには魅力を感じていないので授業や行事に関する部分は削るようにしていきました。
―― なるほど。これらの様々な要素が組み合わさって「夜と海」という作品が構築されていったのですね。
演劇の主役にも関わらずクラスから逃げ出す二人。
「女性の同性間の関係性を描く場として魅力的である」
―― 続いて今度は先生ご自身のお話についていくつかお伺いさせていただければと思います。先生は「夜と海」以外にも「シロップ 社会人百合アンソロジー」といった様々な百合アンソロジーに参加されておりますが、先生ご自身が百合に興味を持ったきっかけは何でしょうか。
郷本先生:単に好みの関係性の描写が百合という形式で出力可能だったという感じですね。アンソロジーもお声掛け頂いたので執筆に至ったに過ぎないので……。
―― 好みの関係性というと?
郷本先生:恋愛感情に限らず女性の同性間の関係性を描く場として魅力的であるという認識で、「夜と海」に関しては受け手にジャンルをタグ付けして頂いている感覚です。
―― なるほど。百合に興味を持って執筆されているというよりも、出力された作品が百合というものだった…ということですね。ちなみにこういったシチュエーションが好きなどはありますか。
郷本先生:完璧超人同士がお互いの前ではポンコツになったりしているのとかが好みですね。
―― 素晴らしいシチュエーションですね。先生は「夜と海」に限らず様々な媒体で漫画家として活躍されておりますが、その中で一番嬉しかったことはなんでしょうか。
郷本先生:描いた量や読者の存在が明確に見える形になった事です。表紙のデザインを大変良いものにして頂けたのも嬉しかったです。
―― ここまで様々なことを語って頂き誠にありがとうございました。私も人生の中で様々な百合漫画を読んできましたが、その中でも「夜と海」という作品は他の百合漫画とはまた違った独特の魅力が詰まっている作品だと思っております。そしてその魅力の源泉は郷本先生だからこそ生み出すことができたのだと、今回お話をさせて頂く中で強く感じました。素晴らしい作品をありがとうございました。
郷本先生:そう言ってもらえたら光栄です。
―― それでは最後となってしまいますが、読者の皆様に向けてコメントをお願いします。
郷本先生:「夜と海」にご興味を持っていただきありがとうございました。また、これから「夜と海」を手に取ってくださる方も、ぼんやり絵でも眺める気持ちで気楽に読んでいただけると嬉しいです。そして最後までお楽しみ頂けると何よりです。
名前 : 郷本 Twitter: @g0umot0 芳文社より「夜と海」全3巻、「ねこだまり」全4巻が発売中。 |
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