8月18日にコミックス第5巻が発売された『ヒーローさんと元女幹部さん』。正義のヒーローと怪人組織の元女幹部の同居生活を描き、百合好きにも特撮好きにも愛された本作の完結を記念して、著者であるそめちめ先生にインタビューさせていただくことができました。
『ヒーローさんと元女幹部さん』完結記念インタビュー
★著者プロフィール★
名前:そめちめ
Twitter:@Sometime1209
2018年10月よりpixiv百合姫(一迅社)にて『ヒーローさんと元女幹部さん』を初連載。現在、まんがタイムきららフォワード(芳文社)にて『ほうかご再テンセイ!』を連載中。
「感情のぶつかり合い」を戦闘シーンとして描く
―― 「特撮」×「百合」という異色の組み合わせが話題になった「ヒロかん」ですが、本作はどういった経緯で生まれたのでしょうか?
そめちめ先生:「ヒロかん」はもともと、2017年ごろにTwitterの個人アカウントで描いた読み切りでした。当時はTwitterの4ページマンガがバズって商業化して……みたいなのが目立つようになった時期で、僕もあわよくばその流れに乗っかりたいという気持ちも少なからずあった気がします。
設定は、以前から考えていた「女性ヒーローと敵の女幹部が百合だったら最高では?」という妄想がベースになっています。そうしてTwitterにアップしたところ思った以上に反響があり、一迅社さんから声をかけていただいて、pixiv百合姫で連載することになりました。
―― 女の子が変身して戦う作品はこれまでにもありましたが、いわゆる「ニチアサ特撮」の要素を取り入れた作品は珍しいと思います。
そめちめ先生:他の作品の女性ヒーローは、変身した後も素顔のままだったり、アイマスクだけして口元は見えていたりするデザインが多いんですよね。個人的には「女の子だってかっこいいヒーローに変身してもいいじゃん!」と思っていたので、仮面ライダーや戦隊ものみたいにフルフェイスの変身フォームにしたのは結果的に「ヒロかん」の独自性になったのかなと思います。
―― 「ヒロかん」という作品を、そめちめ先生は百合マンガとして描いていますか? それとも特撮マンガとして描いていますか?
そめちめ先生:初期のころは、物語の縦軸に特撮があって、サブ要素に百合もあるくらいのイメージでしたね。当時はマンガ家歴もまだ短く、キャラクターの感情の動きを描くのがあまり得意ではなかったので、ストーリーが進む場面では絵的にわかりやすい戦闘描写に頼っていたところがありました。
―― 初期の時点では、どちらかといえば特撮寄りだったんですね。
そめちめ先生:はい。ただ、3巻の終盤でラピッドラビットCPの強化フォームを出したあたりから、戦闘シーンの中に自然と百合要素を入れられるようになっていきました。キャラクター同士が自分の気持ちを相手にぶつけながら殴り合うんですけど、それってまさに「感情のぶつかり合い」だと気づいたんです。
それまで戦闘パートは特撮、日常パートは百合みたいに50:50だったものを、100:100で全力で描けるようになったというか。特撮も百合も好きだから両方入れちゃえという単純なきっかけで始まった作品ですが、描いていくうちに両方が噛み合う部分を見つけられたんだと思います。
―― 「ヒロかん」全5巻の中で、特にお気に入りのエピソードはどこですか?
そめちめ先生:今の話と重複しますが、3巻の第15話「ヒーロー×元女幹部」です。当時は隔月更新だったんですが、このときはめちゃめちゃ筆が乗っていて、更新ペースをいつもより早めて二週間にしてもらいました。
タイトル回収したり、敵が使った次元ツールが自分たちの強化アイテムになったり、キマシタワーが建ったり、色々な要素が綺麗にはまって。あそこで物語が一旦ひと区切りついて最終回までの展開に繋がっていくので、そういった意味でも思い入れがありますね。
―― 作品全体を通して意識していたことはありますか?
そめちめ先生:暗くなりすぎないように、シリアスなシーンでもときどきコメディ要素を入れることは意識していたと思います。キョーカちゃんは出てきただけで空気がパッと明るくなるし、クール・ダウンさんも画面の端で「共鳴」って言わせてるだけで笑いが取れるので、この2人にはよく助けてもらいました。
―― 「ヒロかん」のテーマといいますか、そめちめ先生がこの作品で一番描きたかったことは何だったんでしょうか?
そめちめ先生:作中でも「愛」というワードをよく出していたように、立場や身分が違う人同士の恋愛、ということになるでしょうか。最初は深く考えずにヒーローと悪役のカップリングありきで描いていたのを、なぜこの2人が愛し合うのかを深掘りしていった感じですね。
「マンガを読むこと」も体験のひとつ
―― 先生の「特撮」と「百合」のルーツについてもお伺いしたいと思います。まず、特撮にはまったきっかけは何でしたか?
そめちめ先生:幼少期にも一応ニチアサの特撮番組は観ていましたが、子どもだったのでストーリーとかがよくわからず、そのうち自然と離れていってしまいました。本格的にはまったのは、中学時代に特撮好きの友達の影響で観るようになった『仮面ライダー鎧武』からです。
フルーツが空から降ってきて鎧になるっていう、冷静に考えると完全に絵面がおかしいのに、ちゃんと変身後のデザインはかっこよく見えるしお話も面白い。そういったギャップに惹かれて特撮というジャンル自体にも興味が出てきて、過去のライダーシリーズや他の特撮作品も観るようになりました。
―― 続いて、百合のほうは?
そめちめ先生:こちらはきっかけが曖昧としているのですが、昔読んでいた『カゲロウプロジェクト』の小説に「これが百合ってやつですか」というセリフがあって、そこで初めて「百合」という言葉を知りました。それと同時期に『桜Trick』のアニメを観て「これが百合ってやつか……」と衝撃を受け、そこから百合のジャンルに興味を持つようになった感じですね。
ただ、その前にも『ケロロ軍曹』の夏海ちゃんと小雪ちゃんのペアを見て、この2人の関係好きだなと思ったことがあったので、雪夏が僕の百合のルーツなのかもしれません。
―― マンガを描き始めたのはいつごろからですか?
そめちめ先生:本格的にマンガを描き始めたのは、大学生になってからです。イラストは昔から描いていたものの、マンガはコマ割りなどの作法がわからなくて避けていたのですが、大学に漫研があることを知り、ここに入ればマンガを描けるようになるかもしれないと思って飛び込んでみました。
先輩のネームに作画担当として絵をつけていくうちに、マンガってこう描くんだなというのがだんだんわかってきて。ちょうどそのころTwitterで4ページマンガがバズっているのをよく見かけて、自分でも描いてみようと思ってアップしたのが「ヒロかん」の読み切り版です。
―― そめちめ先生のTwitterアカウントも個人的に拝見しているのですが、他の作品に対する考察の鋭さを感じます。昔からあのような視点は持たれていたんでしょうか?
そめちめ先生:そこは、自分でマンガを描き始めてから意識するようになりました。最初は「なんか展開がおかしいな」と思ってしまうシーンでも、注意深く読んでいくと、実は一本筋の通ったテーマに沿って描かれていることに気づけたりするんです。だからただ面白かった、つまらなかったで終わらせず、なるべく色々な視点で他の作品を見るように心がけています。
―― これから先、どんなマンガ家になっていきたいですか?
そめちめ先生:5年先、10年先のことはあまり考えていませんが、縁に恵まれてマンガ家になれた以上、読者の方に楽しんでいただけるようなマンガをこれからも描き続けたいと思っています。
「マンガ家は自分が体験したことを描いてこそ」とも言われたりしますが、今の時代、マンガを読むことも立派な体験のひとつだと思うんです。僕自身、面白いマンガや特撮作品に出会ったらそれらの要素を分析して自分のマンガに取り入れていきたいですし、さらにそれが誰かが創作を始めるきっかけになれば嬉しいですね。
―― ありがとうございました!
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