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社交ダンスをきっかけに動き出す、少女たちの関係性の行方——「踊り場にスカートが鳴る」うたたね游先生インタビュー

(記事提供:株式会社 一迅社) 
 


社交ダンス部二年生の春間ききは、パートナー(女役)として踊りたいと思いながらも、高い身長が故にリーダー(男役)をやり続けていた。しかし、幼なじみの合歓木紫苑からペアの解消を告げられ、急遽新しいパートナーを探すことになる。そんな中、新入生の鳥羽見みちるが現れ、「私のパートナーになってください」と言うのだった……。

 

4月18日に第3巻が発売された『踊り場にスカートが鳴る』は、社交ダンスを題材に少女たちの葛藤と関係性を描く物語だ。今回は第3巻の刊行を記念して、著者であるうたたね游先生にインタビューを敢行。うたたね先生の創作の原点や、『踊り場にスカートが鳴る』創作秘話を伺った。

 

「踊り場にスカートが鳴る」うたたね游先生インタビュー

 

著者プロフィール

名前:うたたね游
Twitter:@remon__pie
2020年8月よりコミック百合姫(一迅社)にて『踊り場にスカートが鳴る』を連載。
作品試し読み:https://ichijin-plus.com/comics/2417154326588

 

マンガ家・うたたね游の原点とは

 

——そもそもうたたね先生は、幼少期どういったマンガを読まれていたのでしょうか。

 

うたたね先生:私が子どもの頃は、「ちゃお」や「りぼん」といった少女マンガ雑誌を読んでいたんです。加えて、家族もマンガが大好きだったので家にはマンガがいっぱいあったんですよ。なので、ジャンルを問わず色々な作品を読んでいました。

 

——その中でも好きだった作家さんはいらっしゃいますか?

 

うたたね先生:種村有菜先生ですね。世の中にはこんな綺麗な絵と面白い物語があるんだなと感動して、小学生の頃はずっと種村先生の模写をしていました。その頃から漠然とマンガ家になりたいなと思うようになっていましたね。

 

——明確にマンガ家を目指したターニングポイントはどこでしたか?

 

うたたね先生:私は今も兼業作家なんですが、仕事が忙しくなって思うようにマンガを描けなくなった時期があったんですよ。そのときに何か描かないとダメだなと思って、pixivにマンガをアップロードしました。それがきっかけとなって、編集さんから声を掛けていただくようになったんです。

 

——様々な作品を読まれていたとのことですが、作風に影響を与えた作品があるとしたら何かお教えください。

 

うたたね先生:私が一番多感な時期に読んでいた『ARIA』と『最終兵器彼女』だと思います。二作品はぱっと見関連性がないように感じると思うんですが、どちらも感情の表現と読み終わった後の余韻が凄まじいんですよ。そういった作品が大好きなので、コマ割りやモノローグを駆使して余韻を出せるように考えながら『踊り場にスカートが鳴る』を描いています。

 

——なるほど……。確かに『踊り場にスカートが鳴る』だけではなく、読み切りや連作もそうですが、うたたね先生の作品は読み終わった後、余韻を感じることが多いです。また、言葉にできない感情に重点を置かれた作品が多いようにも感じました。

 

うたたね先生:物語や、二人の間にある言葉にできない感情を浴びるのが大好きなんです。なので、そういったものを描きたいなとずっと考えています。

 

言葉にできない感情

 

——そういった「二人の間にある言葉にできない感情」を描くジャンルの一つに、百合があると思います。『踊り場にスカートが鳴る』は百合の専門誌である「コミック百合姫」での連載です。うたたね先生はどういった経緯で『踊り場にスカートが鳴る』を考えられたのでしょうか。

 

うたたね先生:以前描いた読み切りを見て、担当さんが声を掛けてくださったんです。元々「百合姫」では『citrus』が大好きでしたし、何を描いてもいいという自由さを感じていましたから是非にとお請けすることにしました。そのときに、『踊り場』の原型になる企画書のほかに、離島と廃校ものと、ファンタジーものの三つを提出したことを覚えています。

 

——その三つの案を出したのは、どういった理由からでしたか?

 

うたたね先生:女の子同士で描きたいお話を考えたときに、真っ先に考えたものはアニメや映画のダンスシーンだったんです。女性同士で踊るシーンが特に大好きで、そこを深掘りした作品を描けないだろうか、ということが『踊り場』の始まりでしたね。『マリア様がみてる』や『青い花』のような学園を舞台にした作品も好きなので、そういったイメージもありました。あとの二本は元々私が百合に抱いていた印象を反映したものと、『最終兵器彼女』っぽい雰囲気のファンタジーはどうだろうかと思い、考えたものですね。

 

——そこから担当さんが『踊り場』を選び、連載企画が本格化していくんですね。その時点で題材となる社交ダンスについて、詳しくご存じだったのでしょうか。

 

うたたね先生:いや、いわゆる「見る専」だったので、専門知識については企画を立ち上げてからインタビューさせて頂いたり、資料を読んだりして覚えていきました。ただ、その中で女性同士のペアで組むことも競技人口の関係であり得ることが分かり、これなら面白い話が描けるかもと確証を持つようになりましたね。

 

——調べる過程で、ききやみちるといったキャラクターも生まれていったのでしょうか。

 

うたたね先生:そうですね。社交ダンスって、リーダー(男役)とパートナー(女役)が分かれていますから、その役割に対して何か感じている女の子のお話にしたいなとは元々考えていたんです。そこからパートナーに憧れつつも、高身長ゆえにリーダーをやっている子を主人公にしようと考えて、ききが生まれました。その時点で『踊り場』のラストで何を描くのかまでざっくりと考えましたね。

 

——その時点から、『踊り場』を描く上で「ここはこうしよう」と決めたことはありましたか?

 

うたたね先生:あくまで『踊り場』はききが主人公なので、他のキャラクターのモノローグはあまりやらないように……と言いつつ、みちるのモノローグは入っちゃうときもあったんですけど(苦笑)。第2巻まではききとみちるのすれ違いが大きな要素なので、双方の目線が描かれてしまうと面白くなくなってしまいます。なので、そこは意識的に量をコントロールしていますね。

 

「外見と心のギャップ」にフォーカスした物語

 

——そうして『踊り場にスカートが鳴る』という作品の連載がスタートしたんですね。ちなみに、タイトルはどういった形で命名されたんですか?

 

うたたね先生:私と担当さんがそれぞれタイトル案を持ち寄ったんですよ。そこで私が「踊り場にローファーが鳴る」、担当さんが「踊り場にスカートが舞う」という案を出して。よくよく考えてみると、踊り場ではローファーではなく上靴を履いているだろう、とか、「スカートが舞う」ではインパクトが薄いということもあって、二つが合わさったタイトルに落ち着いたような覚えがありますね。スカートの衣擦れの音のような印象もあって、とても気に入っているタイトルです。

 

——そういった経緯があったんですね(笑)。そうして連載が始まっていったわけですが、この作品ではききやみちるたちの胸の内に抱えた悩みや葛藤が描かれていきます。うたたね先生は作品を描かれる中で、このキャラクターは動かしやすい、または動かしにくいといった瞬間はありますか?

 

うたたね先生:みんな等しく、動かしやすいときがあまりないかもしれないですね(苦笑)。どの子も考えていることが複雑なんですよ。みちるも登場したときはききをグイグイ引っ張っていくタイプに見えたと思うのですが、実は等身大の悩みを抱えていたことが分かります。だから、読者の方は読めば読むほどキャラクターの見方が変わっていくと思うんですよね。同じように自分も、常にこの子はどういう子なのかを確認しながら描いています。

 

——みちるがききをリードする新入生のように見えたものの、実は悩みを抱えていた……というのは、ききがリーダーをずっと続けながらもパートナーをやりたかった、というギャップにもリンクしますよね。

 

うたたね先生:はい。この『踊り場』という作品では、見た目と中身で違うことがある、ということをテーマの一つにしています。ききは背が高く、周囲からは王子様役を求められるけど、本心ではパートナーをやりたかった。元々ペアを組んでいた紫苑は、いつも飄々としているようで、重く複雑な気持ちを抱えている。そういったギャップがある女の子たちを社交ダンスという題材を通じて描いていく。それが『踊り場』なんですよね。

 

——そういったギャップを描く作業はとても繊細なものだと思いますが、執筆する上で特に気を付けている点は何ですか?

 

うたたね先生:テーマからズレないことでしょうか。先ほど言ったように見た目と中身のギャップもその一つですが、「好き」という気持ちの大事さについてもきちんと向き合うように心掛けています。「好き」という感情は、嬉しかったり何かの原動力になったりすることもある反面辛いこともあるんですよね。そこへの配慮は失わないように気を付けています。想いを伝えるまでにかなりのエネルギーが必要ですけど、好きという気持ちは止められないじゃないですか。辛いことはあるけど、それでもやっていきたい、というところを、上手く描きたいなと。

 

——想いを伝えるという点では、第2巻のラストで描かれたききが「ペアになった」と宣言をするシーンでも、真摯に想いを伝えるまでの葛藤が描かれていましたよね。

 

うたたね先生:そうですね。あの宣言はまさに、ききにとってはとても難しい一歩だったのですが、これからみちると踊っていくためには、踏み出さないといけない一歩でした。なのであのシーンは特に、どういう描写を重ねたら上手く描けるのか、担当さんと何回もやり取りを重ねながら組み立てていきましたね。

 

——既に読まれている方は、また振り返って読んで頂きたいですね。さて、このインタビューは第3巻の刊行と同時期に配信されています。このインタビューを機に第1巻から手に取ってくださる方もいらっしゃると思いますが、うたたね先生はどういった箇所を注目して読んで頂きたいでしょうか。

 

うたたね先生:なにより「関係性の変化」です! 第1巻から時間を掛けて、ききとみちるだけではなく、いろいろなキャラクターたちの関係性の変化を描いてきました。第3巻のラストでようやく連載当初から描きたかった大きな「変化」の場面があります。ジェットコースターで言うなら、最初の坂を登って頂上ぐらいにいるような感覚なので、ここからはいよいよ劇的に動き始めます。ぜひ、今まで「コミック百合姫」やコミックスで読んでくださった方だけではなく、これから読まれる方も、彼女たちの関係性の行方に注目してくださると嬉しいです。

 

 

取材・文/太田祥暉(TARKUS)  

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