『本ページでは作品の魅力を伝える為に、とある結婚に関するいくつかのネタバレ要素を含んでおります。ご注意ください』
とある結婚
作者 | 熊鹿るり |
ジャンル | 社会人/BL/現実系 |
連載日 | 2015/6~2016/2 |
単行本発売日 | 2016/4/7 |
出版社 | 太田出版 |
掲載誌 | WEB連載空間「ぽこぽこ」 |
とある結婚:百合指標
百合度:A | 男性関与:A | 性描写:A |
◆百合度・・・女性同士の結婚を現実的な視点から取り扱っており、非常に百合度が高いです。
◆男性関与・・・友人や親族として男性キャラが多く登場し、ストーリーにも重要な役割となっている。
◆性描写・・・優しい描写ではあるが、性的シーン有。
とある結婚:ストーリー
アメリカ人のアンナと日本人の早紀は、アメリカのカリフォルニア州ロサンゼルスで一緒に暮らす同性カップル。2013年にカリフォルニア州で同性婚が可能になり、アンナは早紀にプロポーズをする。
プロポーズを喜ぶ早紀ではあったが、ある日、早紀が通う会社でレズビアンであることがばれてしまう。早紀は周囲の同性婚に対する認識に苦悩し、結婚すべきかどうか悩んでしまう。
早紀とアンナ、そして隣人のゲイであるショーンとその娘コニーを交えた、とある結婚の物語…。
とある結婚:中心人物
・早紀
「とある結婚」の主人公。生粋の日本人でアンナとは学生時代の後輩であり、アンナを追ってアメリカにやってきた。
アメリカでは翻訳の仕事をしており、インターンでありながら会社からはかなり期待されている。
周囲の目を気にしてしまいがちで、少し打たれ弱い所がある。
・アンナ
「とある結婚」のもう一人の主人公。ドイツ系アメリカ人だが、母が日本人であり学生時代に日本に住んでいた時期がある。早紀とはその時の先輩である。
子供向け番組のアートディレクターを務めている。
周囲の目をある程度は気にするものの、早紀に対してまっすぐに向き合ってくれる。
「とある結婚」概要
とある結婚はロサンゼルス在住の漫画家「熊鹿るり」先生が現地での実体験を元に執筆された百合漫画になります!物語の舞台であるロサンゼルスは実際に同性婚が可能となっており、現地での特色や雰囲気などを作中に色濃く反映しております!特に作中で出てくる地名などは実在する物であり、とある結婚という作品の現実味より一層引き立てるものとなっております!
「とある結婚」はとにかく現実的な内容がメインとなっており、女の子によるキャッキャウフフ的な要素はほとんどありません。LGBT要素を前面に押し出しており、主人公達のようなレズビアンカップル以外にもゲイカップル等が登場します。また同性カップルの社会的な問題などを作中で描いており、実際にあっても可笑しくないような話となっております。
そして「とある結婚」では同性と結婚する事への葛藤なども綿密に描かれており、LGBTに対する理解を深めるための参考書としても読むことができます。単行本内に存在する作者のコラムコーナーは、作者のLGBTパレードの実体験なども掲載されており、非常に興味深い内容となっております。
「とある結婚」は漫画要素以外にも、コラムの内容が非常に充実しており、他の百合漫画と一線を画す部分だと言えるでしょう。
「とある結婚」の見所
「とある結婚」には他の作品にはない、特徴的な要素が数多く組み込まれています。今回はその一部についてご紹介していきましょう。
プロポーズから始まる物語
「とある結婚」の舞台はアメリカのロサンゼルス。アンナの早紀に対するプロポーズから物語は始まります。ある朝、レズビアンのカップルが式を挙げる風景がテレビで放送されおり、二人はそれを見ていました。それを見た早紀は結婚できる事に関心は示すものの、自分自信の事についてはあまり深く考えていませんでした。
そう思っていたのも束の間、テレビを見終わった後に恋人であるアンナからまさかのプロポーズがきました。予想外の事に戸惑ってしまう早紀は、両親の事や仕事のことなども不安もあって返事を先延ばしにすることに。アンナもこれに快く了承し、時間をかけてゆっくりと答えを出すことを決めました。
・特徴的なキャラクター達
二人は学生時代から付き合っており、相思相愛のカップルでした。そして卒業後、大人になったアンナは母国のアメリカに帰国。早紀もそんなアンナを追いかけてアメリカに一つ屋根の下で暮らし始めました。早紀達が住んでいる町は非常に同性愛者が多く、なんと住んでいる人の40%以上が同性愛者の方です(この舞台となる街も実在します)。
そして隣人にはゲイのショーンとその娘コニーが暮らしています。ショーンは明るい性格をしており、結婚の事で悩んでいる早紀の悩みを聞いてあげたりするなど、とても優しいキャラクターです。コニーはちょっとツンツンしていますが、実際はみんなの事が大好きな優しい女の子です。ちょっと一風変わった家族ではありますが、二人ともとても優しく人達です。
しかし、そんな明るいショーンにも元々は男性のパートナーがいたのですが、3年前事故で亡くしていることが作中で明らかにされます。パートナーを失った後もコニー前では元気に立ち振る舞ってはいますが、その胸の奥はどのような気持ちとなっているのか、それは物語の途中で明かされます。
・同性愛者への偏見
とある結婚では同性愛者の方々が抱える様々な悩みや問題が作中にて描かれています。ショーンの娘であるコニーは父親が二人いるという事で学校では変態家族と虐められ、アンナからプロポーズを受けた早紀も、世間からの強い風当りに晒されてしまい、心が折れそうになってしまいます。
物語の途中に、二人の学生時代の話に入ったりもします。恋人になる前から仲の良かった早紀とアンナですが、学校で「二人はレズなのでは?」という噂が広まってしまいます。早紀はこういった周囲の目や偏見に屈してしまい、本当は好きだったアンナを裏切り、心に大きな傷を残すことになります。こういった作中で語られる悩みや悲しみは、読んでいるだけで自分自身の心が締め付けられるような感じがして、とても辛い気持ちになっていきました。
もっと「とある結婚」の内容について語りたいのですが、これ以上話してしまうと実際に読んでいただいた時の楽しさが半減してしまうので、この程度で留めて起きましょう。それだけ「とある結婚」で語られている内容はとても印象的な物であると言えます。私はこの作品を百合好きに限らず、一人でも多くの人に読んでもらいたいです。
「とある結婚」総括
「とある結婚」では「現実における同性同士の結婚」という他の作品にはあまり見られないテーマを真正面から描いており、同性愛者に対する障害や問題なども余すことなくしっかりと描かれております
「現実の百合ってどういうものか?」、「どういった問題があるのか?」、そういった疑問を持つ方にはピッタリな作品といえます。LGBTに対して興味関心のある方にも是非読んでいただきたい作品と言えます。
しかし冒頭でも話した通り、「とある結婚」は女の子達が楽しくイチャイチャする漫画ではなく、同性愛者が持つ苦悩を多く描いた作品となります。その内容の関係上、それなりに百合作品に慣れ親しんだ方、そしてリアル系の百合作品が大丈夫な方向きの作品と言えるでしょう。
「とある結婚」は数多くある百合漫画の中でも上級者向けの作品であり、人によって感想が大きく異なる作品だと思います。
しかし、私はこの作品が良いか悪いかよりも、単純に多くの人に「とある結婚」という作品を読んでほしい、と思いました。それだけ印象に残る作品でした。
熊鹿るり先生の「とある結婚」の紹介は以上です!ここまで読んでくださってありがとうございました!
とある結婚 単行本