謎多き美女と彼女に引き寄せられてゆく少女の物語を描いた「破滅の恋人」。2021年より白泉社「楽園」にて連載開始された本作の第2巻が2024年8月に発売される。同著者が過去手がけた「夜と海」の様な独特な表現技法によって描かれる大人の子供の日常を描いた本作。今回、第2巻の刊行を記念し「破滅の恋人」の著者である郷本先生に本作についてお話しさせて頂く機会を設けて頂きましたので、その内容をお届けしたいと思う。
「破滅の恋人」第2巻発売記念インタビュー!
―― 郷本先生。この度はお忙しい中お時間を頂き大変誠にありがとうございます。本日は「破滅の恋人」第2巻の発売記念ということで、本作の魅力についてより多くの方に知って頂けるよう、僭越ながらお付き合いのほどよろしくお願い致します。
郷本先生:はい、よろしくお願いします。
―― 先生とは以前、「夜と海」の完結の際もインタビューの方をさせて頂いておりまして、その際に先生ご自身のルーツなども語って頂きましたので、今回は「破滅の恋人」という作品そのものと、過去作からの変化などについても深掘りしていけたらと思っております。
郷本先生:承知しました。何卒よろしくお願いします。
クラスメイトが噂する幽霊屋敷にぬいぐるみを置いてきてしまった友人の為に、一人でぬいぐるみを取りに行った少女・ありす。普段、寄り道などしない彼女だったが、部屋の奥に進むと埃を被ったピアノが。ピアノに近づくと背後から屋敷の主であるお姉さんに声をかけられ、二人の物語は動いていくことになる。
―― それでは最初に「破滅の恋人」という作品がどの様な経緯で生まれたのかについてお伺いしてもよろしいでしょうか。
郷本先生:そうですね……元々「楽園」での連載自体は決定していてそこから次の作品を考えることになったんですよね。
―― 作品が会議に通って連載開始…という流れではなく、連載そのものは決定していてそこから作品が作られた、ということでしょうか。
郷本先生:はい。そこから担当者さんと相談を始めてまずタイトルから決定したんですよね。
―― タイトルがまず最初に生まれたのですか?
郷本先生:はい。担当者さんに何個か考えたタイトルをまとめて送っていて、その中でも「破滅の恋人」はメールを送る直前に閃いた物でした。個人的にも刺さるタイトルでしたし、担当者さんからの反応も良かったのでこのタイトルで進めようってことになりました。
―― タイトルが先行して生まれるというのはかなり珍しく感じますね。
郷本先生:そこからは「破滅の恋人」というタイトルに相応しい作品作りをしていきました。今までと趣向の異なるタイトルだったので、どういった作品にしようか悩んでいたところ、元々タイトル候補とは別にキャラクター候補も並行して考えていたので、その中にいた魔女のお姉さんを主役にすることにしました。
―― つまりタイトルもキャラクターも、元は個別で考えられた物同士を組み合わされたということでしょうか。
郷本先生:はい、そうです。新しい作品に着手するときは一旦自分の中の引き出しをできるだけ出し、その中から「これだ!」って思うベストマッチを探すというのをよくやっておりまして、「破滅の恋人」に関しましてもその様にさせて頂きました。
―― なるほど。作中でも度々表現される”魔女の様なお姉さん”というのはそういったところからも来ているのですね。それではもう一人の主人公と言える少女はありすはどの様な形で生まれたのでしょうか。
郷本先生:ありすの場合はお姉さん有りきで生まれたといった感じです。元々、対照的なキャラクター同士の組み合わせが好きなので、ダウナーなお姉さんと正反対なキャラクター、ということで幼い中学生で真面目な感じの少女・ありすが生まれました。
―― ありすという名前はかの有名な”不思議の国のアリス”から来ているのでしょうか。
郷本先生:その通りです。私が幼少期の頃から不思議の国のアリスが好きだったということもあり、様々なところでモチーフにさせて頂いております。例えば第1巻でありすが草木の中を通って屋敷へと向かうシーンは、”不思議の国のアリス”みたいに未知の世界へと足を踏み入れたのを再現しました。
―― 作品の生まれた経緯について、お教えいただき誠にありがとうございました。続いては連載が始まってからのお話についてお伺いしたいのですが、「楽園」という媒体はイメージ的に恋愛作品が多い認識があるのですが、そういった雑誌で連載にするにあたって何か意識した部分などはあるのでしょうか。
郷本先生:実のところをいうと、「楽園」という雑誌だから特段意識したということはあまりないですね。担当者さんともその様な相談しておりましたし。
―― そうなのですね。「楽園」の百合作品は特に恋愛要素を打ち出した作品が多いイメージがございました。
郷本先生:作品的にいうと、人間同士の関係性にフォーカスし、各キャラクターの色んな一面を描けるように意識してます。例えばありすが自問自答しているシーンとか。それ以外にも中学生と大人という社会的な立場・世界観の違いをより表現するために双方の人間関係をそれぞれ描く様にしています。。
―― 確かに本作には二人だけの関係に終止しているわけではなく、周辺の人間関係を交えた様々なエピソードが描かれておりますね。
郷本先生:そういった人間模様を表現していきたいと思っています。「夜と海」は高校生の三年間という決まった時間でのお話という前提があったのに対し、「破滅の恋人」ではそういった制約もないのでお姉さんの過去を交えた様々な側面を描きたいと思ってます。
―― 中学生という多感な時期を生きるありすと、様々な過去を持つお姉さんとでは、その感情や人間模様も大きく異なりそうですね。
郷本先生:そうですね。基本的にありすは物語に合わせてその場その場の感情で表現していきたいと思っております。冒頭の屋敷にぬいぐるみを取りに行くのもそうですが、少女の方が大人に飛び込んでいく様を即興的に描いていきたいです。
―― 未知の世界へと飛び込んでいくのは、まさに先ほど話した不思議の国のアリスに通ずるものがございますね。その他には連載するにあたって苦労されている所などはございますか。
郷本先生:執筆している最中に自分自身が女子高生とか女子中学生とかの気持ちにどれだけ近づけるかが怖かったですね。「破滅の恋人」ですとやはりありすが中学生というのもあり、そこを上手く表現できているかはよく悩んだりします。
―― 作品の世界観や雰囲気を重視するとなると、本作の場合そこの部分は特に重要なポイントになりそうですね。
郷本先生:心情的にはお姉さんを描く方が楽なのですが、思春期独特の揺らぎというのは中々表現するのが難しいです……ただ良い悩みでもあると思っているので、そこはこれからも頑張っていきたいと思ってます。
―― 先生の作品作りへの拘りや熱意が強く伝わってくるお話ですね、ありがとうございます。そんな作品の中でも先生が特に印象的に思われてるシーンなどはございますでしょうか。
郷本先生:好きなシーンですと第1話の葉っぱが生い茂っている中、アリスの横顔が描かれてるシーンが一番印象に残ってますね。ここも不思議の国のアリスのようなものを無意識のうちに反映していたのかと思いますし、かなり気に入ってるので1巻の表紙にもこのシーンを採用しました。
―― ここまでのお話を聞くと様々な意味を持ったシーンと言えますね。
郷本先生:他のシーンでいうと屋敷を掃除している時にお姉さんが虫を避けるシーンですね。大人なお姉さんが子供の後ろに隠れるというのもギャップ感を感じられて好きです。
―― ここまで作品のバックボーンなどについて色々語っていただき誠にありがとうございます。そろそろインタビューも終盤ということで、今後作品についてどういった部分を読者に楽しんでもらいたいか、コメントを頂けると幸いです。
郷本先生:そうですね。「夜と海」では二人の凸凹コンビの関係を楽しんでいただきましたが、「破滅の恋人」ではお姉さん視点とありす視点の異なる視点を楽しんでもらいたいと思っております。
―― 視点の違いですか?
郷本先生:はい、そうです。先程お話ししましたが今後お姉さんの過去エピソードなど様々なお話が出てくるのですが、これは読者の皆様には伝わるものの、ありす本人にはお姉さんは謎の存在として物語が進んでいきます。つまり読者の皆様とありす本人の視点が異なっているということですね。
―― ありす視点では綺麗な年上のお姉さんに見えても、私たち読者には過去に色々あった変わった人という認識になったりするのかも知れないのですね。
郷本先生:そういった部分も着目しながら楽しんでいただけると嬉しく思います。各キャラクターにそれぞれの世界があることを知ってもらえた上で、一緒にお姉さんに惹かれて行ってもらえたらと思います。
―― ここまで様々なことを語っていただき誠にありがとうございました。最後に百合好きの方、百合ナビをご覧になられている方々などにコメントをお願いします。
郷本先生:自分の描いてる作品は百合と強く明言してるわけではなく、一般的なガールズラブとして恋愛要素は強くない中、百合好き方々が間口を広く開けて迎え入れてくれていることにすごく感謝しております。お姉さんとありすの日常、そして絵とか自由な表現も含めて「破滅の恋人」という作品を楽しんでもらえたら幸いです。
―― 郷本先生、この度は貴重なご機会をいただき誠にありがとうございました。
名前 : 郷本 X(Twitter): @g0umot0 漫画など|『破滅の恋人』『ヴィトロ・アニマ』連載中│『夜と海』『ねこだまり』 |
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破滅の恋人 1 (楽園コミックス) Kindle版 |
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