YouTubeにて配信中の百合漫画シリーズ「琴崎さんがみてる」が電撃文庫にて小説化が決定。それに伴い作品の一部設定が変更されファンや百合好きの間で大きな物議を醸す結果となりました。
Youtube百合漫画「琴崎さんがみてる」小説化に伴い主人公が女性から男性へと変更。原案者にその理由を聞いてみた
「琴崎さんがみてる」とは、YouTubeチャンネル「漫画エンジェルネコオカ」が配信しているYouTube漫画シリーズ。名門お嬢様学校に通う人間観察が趣味の学生・琴崎イリアが、様々な百合カップルを観察し恋の行く末を語っていくYouTube漫画となっております。
原案はライトノベル作家・弘前龍先生、脚本には同じくライトノベル作家である五十嵐雄策先生、イラストには漫画家兼イラストレーターとして活躍されている佐倉おりこ先生が携わっており、2021年3月19日よりシリーズ第一作目がYouTubeに投稿され、一部回は10万再生を超えるなど人気を誇る作品でございました。
そんな本作ですが、この度電撃文庫にて小説版の発売が決定。電撃文庫公式HPにて正式タイトルやあらすじなどが公開されましたが、この内容が大きな物議を醸すこととなります。
※記事公開当時の物になります。
「琴崎さんがみてる ~俺の隣で百合カップルを観察する限界お嬢様~ 電撃文庫公式HP」より引用
まず小説化に辺り主人公が女性であった琴崎さんから男性へと変更。更に学園の設定が女子校から共学校へと変更になりファンや百合好きの間で大きな騒ぎとなりました。
「原作では男性は登場しておらず百合漫画として人気を博していたはずなのに突然主人公が男性になったこと」「名門お嬢様学校が舞台だったはずなのになぜか共学校に変更されていること」などから百合業界を中心に大きな批判を生み、「百合だと売れないと判断した編集部に設定を変えさせられ、男女物・ハーレム物になってしまったのではないか」といった憶測も流れる事態となりました。
そこで今回「琴崎さんがみてる」の原案者である弘前龍様に直接お話を聞き、どのような経緯があったのかお聞きしてみました。以下その質問と回答となります。
【回答】
まず、誤解を招いてしまった点について釈明させて頂きます。
本作「琴崎さんがみてる」が『小説化に伴い原作の設定が変更された』ということはありません。実は企画の初期から「琴崎さんが1人で百合を観察している」YouTube版と、その後日談(1年後の話)としての小説版をセットで構想していました。小説版のコンセプトは、既に話題になっているように「百合好きなお嬢様と百合男子が一緒に語り合う」というもので、これは企画初期の頃から変わっていません。
YouTube版は、小説版から見るとプロローグ(1年前の話)になるような位置づけで制作しました。まだ公開されていないYouTube版5話でいくつか新しい設定を明かし、小説版へ繋げる予定でしたが情報公開の順番が前後してしまい、小説版のあらすじのほうが先に世に出てしまった結果、想定外の反響をいただいてしまった、という次第でございます。
【回答】
YouTube版と小説版は、それぞれのメディア特性に合わせてコンテンツを制作しています。特にYouTube漫画というジャンルは独特の傾向があり、登場人物が少なくシンプルな話が望ましいと言われています。実際「漫画エンジェルネコオカ」の作品も、10分程度の動画であれば、一般的には2~3人しか登場しません。しかし「琴崎さんがみてる」は、観察対象の百合カップル+琴崎さんで最低3人必要な作品です。そこにもう1人の男性主人公を入れることは難しいと判断し、現在の形に落ち着いた……という次第です。
だからといって小説版は決して百合というジャンルを蔑ろにしている訳ではありません。むしろ逆で、百合に触れたことがないライトノベル読者にも、百合の素晴らしさを届けたい……という想いが根底にあり、「琴崎さんの影響で百合好きになった男」視点を通じて、1人でも多くの読者が百合の沼に引きずり込まれてほしい……という狙いもある作品です。
とはいえ、YouTube版と小説版の設定がまったくの別物に見えてしまい、大きな混乱を招いてしまったのは事実です。YouTube版5話の公開時期調整も含め、もっと丁寧な導線を引くべきだったと反省しています。
【回答】
百合に触れたことがないライトノベル読者を想定しています。ただ、小説版はYouTube版とまったく違う層をターゲットに……という言い方になると誤解を招いてしまうのでここも補足させてください。
百合に触れたことがない人たちに向けて……という方針は、YouTube版から一貫しているものです。YouTube版を連載してきた「漫画エンジェルネコオカ」は男女の恋愛漫画がメインコンテンツで、おそらく視聴者の多くは百合に触れたことがありません。何故そんな場所で連載したかと言うと、非常にシンプルな理由で、私自身がチャンネルの管理人を務めているからです。登録者数50万人以上のチャンネルで、1人でも多くの視聴者に百合を布教できれば……という考えがありました。
YouTube版1話(※)が終盤まで男女の恋愛に見せかけて「実は百合漫画でした!」という構成なのですが、これはまさに、百合に触れたことがないYouTube視聴者を意識していたためです。
【回答】
少なくとも、主人公(男性)は琴崎さんに対して限りなく恋愛に近い感情を抱いています。そのうえで「百合を愛する観察者は、自分が当事者になってはいけない」つまり「琴崎さんを好きになってはいけない」と苦悩します。自分自身が男であることに起因する「肉欲」への忌避感や罪悪感、という部分も小説版で描いております。
【回答】
YouTube版の舞台が「女子校」であることも、小説版の舞台が「女子校から共学化したばかりの学校」であることにも、ストーリー上の必然性があってそのようにしました。ここから先について深く語ってしまうとどうしてもネタバレを含む上、話が複雑になってしまいますので、要点を絞ってご説明させて頂きます。
・YouTube版では語り部的な立ち位置の琴崎さんでしたが、小説版では琴崎さんの男性に対するトラウマをはじめとした暗い過去などにも触れており、一人の人間として深く掘り下げる内容となっております。
・小説版の主人公は男性ですが、百合を愛する同志として、ただ一人、琴崎さんの傍にいることを例外的に許された存在です。
・小説版はYouTube版と同じく基本的にコメディ路線の話ではありますが、上記の様なシリアス要素も少しだけ含まれています。
・琴崎さんのキャラクター設定は初期段階で決まっており、その設定に沿ったシリアス要素を描くためには、男性主人公がどうしても必要でした。
・1冊の文庫本にYouTube漫画10本分以上の文字情報が入る関係上、それらの設定をYouTube版ではなく小説版で明かしていくことも最初から決めていました。
YouTube版と小説版は、同じ作品であっても、それぞれ異なる観点から描かれています。その意味で、YouTube版のファンからは「全然違う話じゃないか!」というご意見をいただくかもしれません。ただ、それは世間で誤解されているような「百合作品を男女ハーレム作品にする」という目的ではなく、「キャラクターを一人の人間として深く掘り下げる」という目的によるものです。
もちろん、どのような意図があったにせよ、大きな混乱を招いてしまったことは事実です。YouTube版の演出をもう少し工夫していれば防げた誤解もたくさんあったと思います。今回の取材で、1人でも多くの百合好き諸氏に、私の真意が伝わることを願っております。
ご回答は以上となります。お忙しい中、本件について真摯にご回答くださった弘前龍様、質問への許可を出してくださった電撃文庫編集部様、この場を借りて御礼申し上げます。
著者:五十嵐雄策先生、イラスト:佐倉おりこ先生、原案:弘前龍先生のライトノベル「琴崎さんがみてる ~俺の隣で百合カップルを観察する限界お嬢様~」は電撃文庫より10月8日より発売となります。
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