突然のお願いに快く引き受けてくださった仲谷鳰先生、そして電撃大王編集部の皆さま本当にありがとうございます!それでは早速インタビューに参りたいと思います。
自分の考える百合のど真ん中ー『やがて君になる』仲谷鳰先生インタビュー
名前 : 仲谷鳰(なかたに にお) Twitter: @nakataniii 2015年4月より月刊コミック電撃大王(KADOKAWA)にて初の商業連載「やがて君になる」を連載開始。同作は「次にくるマンガ大賞」にて4位を受賞。2018年4月にアニメ化が発表され今に至る。 |
やが君はどのようにして生まれたのですか?
仲谷先生:企画を進めていた頃がもう随分前に感じられて記憶が曖昧な部分もあるのですが、担当のクスノキさんから電撃大王に誘っていただいたときに「百合やりましょう!」と意気投合して始まったと思います。
私が同人誌で女の子同士の話ばかり描いていたからかと(当時は特に百合という意識はありませんでした)。最初に提出した案の時点で先輩後輩の学生百合ではありましたが、ああでもないこうでもないと直していくうちに設定もキャラも変化していったので、どの時点から『やが君』だったのかは自分でもよくわかりません。
やが君を執筆する際に特に意識していることは?
仲谷先生:話の展開としてはキャラにこういう行動を取ってほしい、こういう感情を持ってほしいという私の都合があっても、そのキャラがしないこと、思わないことはさせないように気を付けています。
こう言うととても当たり前のことではあるんですが、意識していないとやってしまいがちなので……。
先生のお気に入りのシーンは?
仲谷先生:反応をもらえると嬉しくなるので、人気のあるシーンが私としても好きなシーンになります。たとえば2巻最後の河原のシーンや、3巻の体育倉庫のシーン、4巻の合宿で侑・燈子・沙弥香が並んで寝るシーンなど。
▲体育倉庫でのごほうび(3巻167P)
▲それぞれの想いが交差する人気のシーン(4巻109P)
自分でひそかに好きなところだと、ごく細かいやりとりのお気に入りはあります。3巻のハンバーガーショップで沙弥香がさりげなく侑のポテトを食べているところとか、5巻の水族館で燈子がメンダコを知らないことに怒る侑とか。
▲さり気なくポテトを食べている沙弥香(3巻106P)
百合漫画は舞台を女子高に設定する作品が多い印象がございますが、やが君が共学校となったのはどういった意図があったのでしょうか?(質問者:Hさん)
仲谷先生:やが君は百合漫画で恋愛漫画なので女の子が女の子を好きになることは間違いないんですが、「女の子を好きになる」というのも一通りではないと思います。
女の子なのにどうしても好きとか、女の子だからこそ好きとか、好きになった相手が女の子だっただけとか、キャラによってその意識は様々です。もちろん、女の子を好きにならない女の子もいます。そういった個々人の違いは、身近に女の子以外もいる環境のほうが見えやすいだろうと思いました。
「誰かを特別に思う気持ちが理解できない」という侑と「誰のことも特別に思えない侑の前なら素の自分でいられる」という七海先輩はどういう過程で誕生したのでしょうか(質問者:Kさん)
仲谷先生:はじめに燈子がいて、それから侑ができたという順番だったと記憶しています……たぶん。
可愛くてめんどくさい女の子が描きたいので、「一見完璧だけど自分を肯定できない女の子」というヒロイン像をまず作って、その子と一緒にいられてゴールに連れて行けるのはどんな主人公だろう、という風に考えたと思います。
やが君は毎話サブタイトルが秀逸で、どのような意味を込めてこれにしたのだろうと考えるのが1つの楽しみです。そこで質問なのですがサブタイトルはどの段階で決定されているのでしょうか?(質問者:Kさん)
仲谷先生:ほとんどの場合、完成原稿を提出するタイミング……つまり最後のギリギリまで粘ってから決めています。悩みます。
珍しいケースとしては、6巻収録の29話から32話までは一連の流れのサブタイトルなので描く前から決まっていました。
先生が個人的にお好きな百合漫画は何ですか?(質問者:Yさん)
仲谷先生:最近の新しい作品から2つほど。
古鉢るかさん『はなにあらし』。まず仲良しグループ5人の中でこっそり付き合っている2人という設定が絶妙だと思います。「バレたら決定的に何かが壊れるというわけでもないけど、やっぱり秘密だよね」という重すぎず軽すぎずの緊張感がリアルな女子高生らしさに満ちている気がして。
基本的に日常の小さなエピソードの積み重ねなのですが、細かな描写も女子高生だなあという感じが本当に上手くて、2人の気持ちの手触りも増しています。
次に原百合子さん『繭、纏う』。僭越ながら単行本1巻の帯に私が推薦文を書かせていただいたんですが、別にだから言っているわけではなくてとても好みの漫画です。
絵が本当に綺麗で、この絵だからこそ説得力のあるお話になっていると思います。群像劇なので各話は緩やかに繋がりつつ、軸になる人物や設定が中心にある塩梅も絶妙です。
先生が漫画を描き始めたきっかけを教えてください(質問者:Hさん)
仲谷先生:小学生高学年の頃に、既存の作品のほとんど丸パクリのような漫画を描いていた覚えがあります。コマを割って描いたのは多分それが初めてですが完成はしませんでした。
初めて完成させたのは高校ぐらいのころに描いた二次創作で、オリジナルでちゃんと描ききったのは大学生になってから投稿用に描いたものでした。
描き始めたきっかけは本当につまらないんですが、保育園の頃に絵を描いていたら誰かに「漫画家になれるね」と褒められたことだと記憶しています。今になって思うと、本当に漫画家になるまで20年以上それを信じ続けていたってちょっとおかしいですね。
仲谷先生に取って百合とはどのような存在なのでしょうか(質問者:Yさん)
仲谷先生:恋愛のお話は好きなんですが、人を好きになる気持ちがあまりにも当たり前で説明不要なものとして描かれている作品には、私はずっとどこかで引っかかりを感じていました。その点、同性愛を題材とした恋愛作品には、相手を好きになる理由や葛藤、あるいは理屈をねじ伏せてしまうような強い関係性が描かれていることが多い気がして惹かれていきました。
別に異性間の恋愛描写に根拠がとぼしいとか、同性間の恋愛描写にはより強度が必要だということは決してないので、自分の言っていることがおかしいとは思っています。ただ、私個人にとっては、同性愛を扱った作品が、物語で描かれる恋愛感情に納得を与えてくれるものだったという体験があるのは仕方のないところです。
BLも好きですし描いたこともあるんですが、いま百合ばかり描いているのは単に女の子が描きたいだけです。女の子ばっかり描いていたいから百合! で描く理由なんて十分かもしれません。
最後に9月末に発売されるやが君6巻と10月から始まるアニメやが君の見所についてお願いします
仲谷先生:6巻は劇の本番も、侑と燈子の関係も、これまで積み上げてきたものにひとつの結果が出る巻です。これまで巻のおさらいなどしていただけると、よりお楽しみいただけるかと思います。
アニメは、原作の演出やキャラの心理を丁寧に汲み取って作っていただいています。その上で、追加された演出や映像ならではの表現といった、アニメスタッフのみなさんのアイデアでより面白いものになっていると思います。
あととにかく動いてしゃべると可愛いんです、楽しみにしていてください!
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取材:ふりっぺ(@yuri_navi)